第93章 絆の証
「水琴、何か良いことでもあった?」
「え?」
昼のピークを過ぎた午後の酒場にて。
いつもの如く友人とお茶をしていた水琴はマキノの「顔、緩んでる」の言葉に思わず頬を抑えた。
「……私そんなににやけてた?」
「ここ数日では一番ね。当ててあげましょうか」
マキノは机に頬杖をつき意味深な視線を水琴へと向けた。
「ずばり、恋でしょう」
「っ?!」
「あら、当たった?」
動揺しあらぬところに入り込んだお茶でむせる水琴を楽しそうに眺めるマキノにぶんぶんと首を振る。
「ちがっ__!」
わない、けれど。
マキノの言葉に水琴はつい先日のことを思い出す。
潮風が吹き抜ける崖から見下ろす水平線を背後に、向けられた真剣な眼差し。
幼い未来の恋人からの言葉が耳の中を優しくくすぐり、水琴は再びにやけそうになる顔をそっと伏せ視線を逸らした。
「その様子だと告白されちゃった?」
「__黙秘します」
言えるわけがない。
未来の恋人とはいえ、十歳の少年に言われた言葉でここまで浮かれているだなんて。
でも、未来の時間軸を合わせたって「おれにしとけ」だなんて情熱的な言葉を言われたのは初めてで。
ほんの些細なすれ違いと遅々として進展しない己の現状に弱気になっていた心は一転、晴れやかに舞い上がっていた。
なんて単純な思考回路だろう。