第92章 宣戦布告
痛む胸を抑える小さなエースの手に細い手がそっと重なる。
気付けば水琴はエースに向き合うように膝をついていた。
「__ありがとう」
その言葉がエースの望む答えではないことを知りエースは俯く。
「……おれが弱いから?」
「エースは強いし、かっこいいよ」
「じゃあガキだから?」
「………」
エースの問いを水琴は否定しなかった。
時の流ればかりはどうしようもない。決して縮まらない歳の差に隣に並び立つことは不可能なのだとエースは唇を噛んだ。
「____もし」
静かな世界に水琴の声が響く。
潮風になびく髪が白く染まる世界に透けるのを見ながら、エースは水琴の言葉を待った。
「もし、大人になってもまだ同じ気持ちでいてくれたら。
__そしたら、また言ってくれる?」
「……そしたらおれを選んでくれるのかよ」
水琴は答えずただ黙ってエースを見つめる。その瞳の中に隠された感情を窺い知ることはエースにはまだできなかった。
黒い瞳がそっと伏せられる。その先に何を見ているのか。いや思い出しているのか。沈黙を守る水琴からは何も読み取れない。
一瞬その色を瞼の奥に隠し、再び目と目が合う。その瞳にはいつもの強い光があった。
「帰ろうか」