第92章 宣戦布告
__私ね、迷子なの
どこかで聞いた水琴の言葉が突然脳裏によみがえる。
あれはいつだったろう。初めて水琴と会った時。熊をどうやって小屋まで運ぼうかと思案していたエースに水琴が零した言葉だった。
帰りたくても帰れないと言う水琴にエースはどうせ弱いから置いて行かれたんだろうと悪態をついた。
そんなエースの返しにひどいなぁと水琴は今みたいに寂しそうに笑ったのだ。
思い出し、気が付く。
水琴が何を想い先程の言葉を吐いたのか。
「__不相応なのかなぁ、って」
目的語も主語も何もない曖昧な言葉。
けれどそれが何を差す言葉かエースにはよく分かった。
「ごめんね、エースには関係ない事なのに。寒くなってきたからかな?冬ってなんだか物悲しく感じるよね。そろそろ鍋もいいかなぁ、なんて」
取り繕うように笑う水琴に胸が痛む。でもそれは今まで覚えていた痛みとは少しだけ感じが違った。
罪悪感や嫉妬の棘が無意識に自身を責めるものではなく、もっと心の奥底から湧き上がるような、苦しく胸を締め付けるそれ。
「__おれにしとけよ」
そのよく分からない衝動のままエースは口を開いた。一度流れ出たそれはエースには止められず、次々と堰を切ったように想いは溢れ零れ落ちていった。
「おれなら、水琴を一人になんてしないから。寂しい想いだってさせないから。
__だから、おれにしとけよ」
どうして。
どうして水琴がこんな目に合わなければならないのだろう。
強くて、眩しくて、誰よりも仲間想いの水琴が、なんで。