第92章 宣戦布告
大丈夫。謝って、理由を言って、告白する。それだけだ。
傷つくことさえ恐れなければ、難しいことなど何もない。
よし、と決意を新たにエースは一歩踏み出す。
なんとか水琴の背後まで近づくと、おい、と声を掛けた。
「あれ?エースどうしたの」
「ダダンのところで風呂借りたんだけどお前出掛けてるって聞いたから」
「わざわざ探しに来てくれたの?」
ありがとう、と笑う水琴に不自然さは見られない。
けれど振り返る直前寂しそうな目で海を眺めていたのをエースは見逃さなかった。
「その……ごめん」
振り絞るように、ぼそりとそれだけを何とか伝える。エースの小さな謝罪を受け水琴は目を丸くした。
「最近、避けてて……」
「__よかった」
謝るエースをまじまじと見つめた後、水琴はそう言い破顔した。その笑顔に不覚にもドキリとする。
「エースにまで呆れられちゃったのかと思った」
「ッそうじゃねェよ!__って、おれにまで……?」
慌てて否定するも水琴の妙な言い回しが引っ掛かり首を傾げる。他の誰かにも何かされているとでも言うのだろうか。
そうだとしたら由々しき事態だ。自分のことは棚に上げてエースはその誰かに対する黒い想念が浮かび上がってくるのを感じ、自然不穏な雰囲気を醸し出し始めた。
「なんだよ。誰かにいじめられてんのか?端町の奴らか?」
「あ、ううん違うよ。別になにかされてるとか、そういう訳じゃないんだけど」
慌てたのは今度は水琴の方だ。低くなるエースの声音に手を振りそうじゃなくてね、と否定してから寂しそうに俯き笑った。