第92章 宣戦布告
「傷ついたり、傷つけたりは誰だってあるさ。それは一見必要のない、無駄なもんかもしれない。
__けどさ。“その先”があるなら。それは決して無駄なことばかりじゃないと、俺は思うよ」
誰も傷つけず、誰からも傷つけられない人間なんていないだろう。
だって人は想いを持っているから。
誰かの正義が誰かを傷つけ、誰かの愛が誰かを苦しめることになるのは避けられないことだ。
けれどそうして互いの想いがぶつかり合った先に、今まで見えていなかったものが見えることもあるかもしれない。
それは決して、無駄なんかじゃないのだとサボは小さく繰り返す。
「__そうだな」
目の前のルフィを見る。
最初は邪魔な存在だった。理解できなくて、ただただ鬱陶しくて、自分の世界を壊す存在。
だけど真正面からぶつかってみれば、それは決して自分の敵ではなかった。
それどころか、その存在は今までの世界をいとも簡単に塗り替えてくれた。
水琴だってそうだ。
何度突っぱねようと、何度否定しようと決して向き合うことを止めず、エースの小さな世界を壊してくれた。
それなのにエースが向き合うことを恐れていては示しがつかないではないか。
揺れる花を見る。エースの心には先程まではなかった勇気が確かに存在した。
「ありがとなルフィ」
でもそれはお前が水琴に渡してやれ、と告げれば弟分は分かりやすく不満をあらわにした。
「せっかくエースのために取ったのに!」
「気持ちだけで十分だ」
さすがにそんなボロボロになってまで得たルフィの成果を横からぶんどることは出来ない。
しかしそれではルフィは納得しないらしい。限界まで膨らませた頬はまるでリスのようだった。
「あー。じゃあ三人からってことで!代表でルフィが渡せばいいだろ?」
な?とサボが間を取り持つように妥協案を口にすれば渋々とルフィが頷く……わけもなく。
「嫌だ!おれは、エースから水琴に渡してほしいんだ!」
「頑固か!」
「言ったろ。おれは海賊だから、想いに妥協はしねェんだ!」
「なぁとりあえず帰ろうぜ」
まだ終わりそうにない兄弟の言い争いに、これ朝までに帰れるのか?とサボは力なく呟くのだった。