第92章 宣戦布告
「お前も行くんだからな」
「__分かってるよ」
たとえハードルが高かろうと居心地が悪かろうと、あのように言われて同じように避けることができるはずもない。
サボの念押すような言葉にエースは重々しく頷いた。
「エース!」
死刑執行を待つようなこちらの心持などまったく意に返していないルフィが足早にエースへと近寄ってくる。
何だと思っているとずいと目の前に件の白い花が突きつけられた。
「なんだよこれ」
「花!エースにやる!」
「はァ??」
「ルフィ。それは水琴にやるんじゃなかったのか?」
サボの問い掛けに内心激しく同意する。
そうだ。水琴が見てみたいと言っていたから、だから取りに来たんだろう。
こんな暗い森を、兄に頼ることもせずたった一人で。
小さな手足を傷だらけにしながら。
なのに何故かエースの前に突き出されたそれの向こう側に見える弟の顔をエースは戸惑いと共に見返す。
ルフィはサボの問い掛けにそうだ!と自信満々に頷いた。
「なら__」
「だから、エースが持っていってやったらきっと水琴と仲直り出来るぞ!」
「………ん?」
「だって喧嘩してんだろ、エースと水琴」
最近なんか、変な感じじゃねェか。とルフィは不服そうに頬を膨らませる。
どうやらルフィは二人の間に漂う微妙な空気を喧嘩と判断していたらしい。
ルフィからしたらまぁ妥当な判断だろう。しかしエースからしてみればここ数日の状況を喧嘩と同様に思われてしまうのは複雑だった。
「喧嘩って、お前」
「何したか知んねェけどさ。水琴は優しいから、ちゃんと謝れば許してくれるって!」
「おれが何かした前提なのか」
「違うのか?」
「いや、ルフィが正しい」
「おいこらサボ」
「間違ってはないだろ?」
そう問われれば否定はできない。ぐうと口を引き結び、エースは苦々しくも沈黙した。
目の前で白い光がちかちかと瞬く。小さな花は、エースの背中を押すように優しく揺れているようだった。
「__エース」
沈黙するエースにサボの落ち着いた声が染みる。
顔を上げれば相棒の穏やかな笑みがエースを見返していた。