第92章 宣戦布告
「あ、見ろよエース、サボ!」
黙り込んでしまったエースの様子には気付かず、ルフィはエースから視線を外し絶壁から少し離れたところに立つ木を指さす。
「あの木に登って手を伸ばしたら届くんじゃねェかな」
「確かに高さはちょうど良さそうだけど、少し距離があるんじゃないか?」
「おれならゴムで腕伸ばせるし、きっと平気だ!」
確かに下から花を狙うよりも距離は近そうだ。
しかしこの暗い視界の中で果たしてうまくいくだろうか。
「おれちょっとやってみる!」
「あ、こらルフィ!」
エースが反応するより先にルフィは木へと登り始めてしまった。
慌ててエースとサボは木の下まで行きルフィの後を追う。
「勝手に一人で行くなよ!少し待てって」
「へーきへーき!」
するすると上っていったルフィは太い枝にまたがった状態でぐるぐると腕を回し花の方へと飛ばす。
何度か試し、ようやくルフィの手が花の茎を掴んだ。
「やった!__っう、わ」
「ルフィ!!」
喜びの声を上げた直後、ルフィの身体がぐらりと傾く。
ようやく同じ高さまで追いついたエースの視界からルフィが消えようとするのを捉え、エースは咄嗟に両腕を伸ばした。
ぐんと体重が両腕にかかる。突然かかった重さに自身の体勢を顧みなかったエースは視界が反転する中ルフィを掴む手に力を込めた。
そんなエースの足首を誰かの手が握る。逆さづりのまま動きを止めたのを確認すると、エースはちらりと上に目をやった。
「__ナイス、サボ」
「いいから早く上がって来い……!」
「エース、サボ!すっげー世界が逆さに見える!」
「「 頼むからお前は暴れるなっ!! 」」
何とか地上に無事に下りた三人はその場に座り込む。
花を握りしめ喜ぶルフィを尻目に兄二人は互いを見て溜息を吐いた。
「泥だらけだなおれら」
「これは明日風呂借りる必要があるな」
風呂か、とエースは独り言ちる。
今しがた水琴にしていたことを自覚してしまったエースにとって、風呂を借りるというのはなんとも厚かましく身の程知らずな行いのように感じた。