第92章 宣戦布告
「なんで無駄だって決めつけるんだ?」
暗い闇の淵に囚われつつあったエースの思考をルフィのあっけらかんとした声が遮った。
あまりにも自分の心情と異なる声音にエースは毒気を抜かれルフィを見返す。
エースの視線を受けルフィは心底不思議そうに首を傾げていた。
「十回試してダメなら百回試せばいいだろ?」
「百回試しても駄目だったらどうすんだよ。傷つき損じゃねェか」
「だから、なんで傷つくのが“損”で“無駄”なんだ?」
「はァ?」
落ちすぎて頭でも打ったのかと、エースは半ば本気でルフィの心配をした。
だってそうでもなければそんなことを疑問に思うだろうか。
人間、誰だって傷つきたくないに決まっている。
傷は痛みを与え、下手すれば命にかかわる。
受けないに越したことはないのだ。
「おれはあの花が欲しい」
ルフィは頭上高くを指さす。決して届かない、夜闇に咲く白い花。
「そのためなら傷ついたって平気だ。だってこの傷はあの花が欲しくてできた傷なんだから。
おれは海賊だから、自分の気持ちに嘘はつかねェ。結果あの花が手に入らなかったとしても、気持ちがなかったことにはならねェ」
結果よりも、過程よりも。ルフィが何よりも大切に思うのは“想い”そのものだった。
まっすぐなその視線にエースは何も言えなくなる。
弱虫で、甘ったれで、一人ではまるで何もできない出来の悪い弟なのに。
こういう時、エースはルフィには決して勝てないと強く思わされるのだ。