第92章 宣戦布告
「ルフィ。気持ちは分かったけどあそこまで登るのは無理だ。明日水琴を連れてきてやったらいいんじゃないか?」
「ダメだ!あの花は一度咲いたら真水に漬けてやらないとすぐに枯れちまうんだって。だから今夜のうちに抜かなきゃいけないんだ」
サボの提案にもルフィは頑として首を縦に振らない。会話に気を取られてしまったのか、三歩も進まぬうちに手を滑らせごろごろと転がり落ちてきた。
「うわっぷ」
「もうやめろって。それ以上やったら怪我するぞ」
「大丈夫だ!ゴムだから!」
「ゴムだって切り傷は出来るだろ」
それを裏付けるかのようにルフィの細い腕や膝には細かな擦り傷が出来上がっている。
あれはきっと風呂で染みるだろう。半泣きになりながら湯につかるルフィが見えるようだ。
もう一度壁に手を付けるルフィの手を取って、エースはもう止めとけと強めの語気で引き留めた。
「もういいだろ?お前があの花を手に入れるのは無理だ」
「分かんねェだろ」
「いや分かれよ!これだけ挑戦して三分の一も上がれてねェじゃねェか。いくら試したって無駄だ」
頭上を見上げる。闇夜に白く浮かび上がる神秘的な花は下方にいるエースたちなどまるで歯牙にもかけずゆらゆらと揺れ慎ましく自身の魅力を振りまいている。
土壁は脆く崩れやすい。エースでもあの高さまで登るのは無理だろう。
試さなくたって分かることもある。無駄に傷つく必要はない。
まるで自分と水琴のことのようだと薄っすらとエースは思った。どう努力しても決して届かない。
傷つく前に諦め、離れるのが一番良い事のはずなのに、中途半端なエースのせいで水琴は傷ついているのだとサボは言う。
なら、どうすればよかったんだろうか。
こんな想いを抱かなければよかった?
しかしそれは土台無理な話だ。きっと何度繰り返したって、同じ想いをエースは抱いてしまうだろう。
ならば、出逢わなければよかったのか。
そうだ。それが一番だったのだ。
決して手に入らないなら。無駄に傷つき、傷つけるだけならば。
最初から、出逢いなどなければ__