第92章 宣戦布告
あぁ。水琴は今まであんな風に笑っていただろうか。
何故胸に痛みを覚えたのか、今になってようやくエースは知る。
「あんな形だけ取り繕った笑みを作らせて、その場を凌げればお前はいいのか?
その裏の水琴の気持ちは関係ないのかよ!」
「ないわけないだろ!そもそも、傷つけたくないから、おれは……っ!!」
「傷つけたくない?違うね。お前が“傷つきたくない”からだろ!どうせ駄目だって、はなから諦めて!
そうやって自分の内に閉じこもって、水琴を傷つけてるのは誰だよ!」
サボの言葉にエースは頭を殴られたようなショックを受ける。
反論しようにも言葉が出てこない。サボの言う通りだと、エースは自身の行いの矛盾に気付いた。
傷つけたくないから、離れるのが最善だと思っていた。
ただの弟分で終われるように。いつか水琴が帰る時に枷とならないように。
だけど“水琴のため”と言いながら、その実エースは自分が傷つくのが怖かっただけだ。
傷つけられないように、離れて。その実弟分という立場は捨てられず。
中途半端に自身の気持ちを押し隠し、何も知らない水琴を振り回し傷つけている。
傷つけたくないだなんて、なんという偽善だろう。
勢いを失ったエースにサボも頭が冷えたのか、大きなため息を一つ吐くときまり悪そうに俯いた。
「……悪い、言い過ぎた」
「いや、おれが__」
「うわぁぁああああ?!?!」
突如叫び声が二人の間の空気を裂く。聞き慣れた叫び声に怒鳴りあっていたことも忘れ、エースとサボは同時に顔を上げた。
「「 ルフィ?! 」」
聞こえた方へ駆け出す。木々の向こうに広がる闇は先程と同様濃いままだったが、歩き回っていたおかげで目が慣れ障害物もさほど苦にならず走ることができた。
明かりの先で柔らかな草の上に転がっていたルフィが身体を起こす。その身体は何故か土塗れだった。