第14章 異世界の民
「いや!やめて!!」
す、とメスが滑る。同時にぴりっとした痛みが指先に走る。
つぅ、と指の先から血が垂れ、水槽に落ちた。
水槽の中に広がった赤い糸はすぐにじわりと滲み水に溶けていく。
すると苦しんでいた魚が徐々に落ち着きを取り戻し、再び穏やかに泳ぎ始めた。
「……うそ」
目の前で起こった現象に言葉をなくす。
「……くっ」
隣で黙って佇んでいたベルクが、小さく肩を揺らした。
「素晴らしい…やはり伝説は本物だった…」
くっくっく、と徐々に笑い声は大きくなっていく。
「“異世界の民”の血は万能薬に!肉は不死の秘薬に!
素晴らしい…!まさか、たった一滴でこれほどの効果があるとは!」
素晴らしい、素晴らしいぞ…と呟く様子はとてもじゃないがまともには見えない。
しかしそれ以上に、水琴は自分に起こっている変化に恐怖を覚えていた。
…ただ、生まれた世界が違う。
水琴とこの世界の人たちの違いなど、その程度だと思っていた。
けれど、明らかに目の前で起こった現象はそれ以上の違いがあることをまざまざと水琴に見せつけていた。
…血が、万能薬?
肉が、不老不死の秘薬……?
水琴はただの一般人だ。
元の世界でも、平凡な、どこにでもいる人間だったはずだ。
それが、なぜ。