第92章 宣戦布告
その日の夜。エースはなかなか寝付けなかった。
眠ろうとすればするほど水琴の笑顔とサボの言葉が頭の中に浮かんでは消える。
そのたびに言葉にできない奇妙な想いが胸を占め、エースは叫びだしたくなるのをぐっと堪えさらに夜の闇へと意識を向けた。
そうしてどれくらい経ったのだろうか。ようやくうとうとと微睡んでいたエースの肩を誰かが揺する。
「エース」
その声で相手がサボだと気付いたエースはようやく訪れていた睡魔が遠のいてしまったことへのいら立ちを隠さずじろりと声の主を睨んだ。
「こんな時間になんだよ」
「ルフィがいねぇ」
文句を言ってやろうと開きかけた口は続いたサボの言葉に再び閉じる。
大きく開かれた窓から外を見る。そこに広がるのは漆黒の闇であり、太陽の恩恵が届かぬ寂寥の世界であった。
近くにルフィはおろか猫の子一匹いる気配は無く、エースは突き出していた頭を元に戻す。
「いつからいないんだ?」
「わかんねぇ。俺もさっき起きたんだけど、もういなかった」
一度寝たら朝まで起きないルフィが一体こんな夜更けに何の用事で根城を抜け出したのか。
冬へと向かいつつあるコルボ山では食べ物に飢えた獣だっていてもおかしくはない。こんな時間に一人のこのこと出歩いていれば、ルフィなど格好の獲物だろう。
サボと顔を見合わせ、言葉も交わさずに二人は根城を飛び出した。