第92章 宣戦布告
「今はそうでも後で欲しくなるかもしんねぇだろ?海賊なら、欲しいものは欲しい時に手に入れないと。誰かにとられた後じゃ遅いんだ」
ルフィの物言いにドキリとする。
まるでうだうだと自分の気持ちを誤魔化しきちんと向き合おうとしなかった自身を責められているような感覚にエースは居心地の悪さを感じた。
そんなエースの心情など全く気付いていないルフィはなぁ?と向かいに座る水琴へと話を振る。
「そうだろ水琴。海賊なら、欲しいものは諦めちゃダメだよな!」
「うーん」
ルフィの言い分に水琴は曖昧に笑う。いろんな状況があるから何とも言えないけど、とそれぞれのカップにお茶を注ぎ直した。
「本当にそれがどうしても譲れないものだったら。その時は、譲らないかな」
「だよな!」
「だけどいたずらに誰かを傷つけるようなことはダメだよ。本当にそれが大事なことなのか見極めることも大事だからね」
「分かった!傷つけないように、ぶんどる!」
「なんか違う気がする」
ルフィと水琴のやり取りが耳を打つ。
水琴の言うことはとても難しいように思えた。
譲りたくない。けれど自身の想いを貫けば、傷つくのが誰かは明白だった。
傷つけたくない。ずっと笑っていてほしい。
出来れば自分のすぐ傍で。
けれど。エースはちらりとルフィと談笑する水琴へと目を向ける。
待っている人がいると語った水琴。
恐らくその時が来れば、水琴は自分の居場所へと帰るだろう。
それを止めることはエースには出来ない。
忘れよう、とエースは一人気持ちに蓋をした。
今すぐは無理かもしれない。だけど、元々何年も気付かず放置していた気持ちなのだ。
暫く水琴と距離を置いていれば、案外すぐに冷めるかもしれない。
恋は“はしか”みたいなものだって誰かが言ってたし。とよく分からぬ知識を思い出し納得しようとする。
大丈夫だ。ずっと家族のように過ごしてきたのだ。きっとまた元通りになれる。
皿の上のクッキーを一枚つまみ口に放り込む。
あっけなく口の中で崩れたそれはまるで砂のように喉を重たく滑っていった。