第91章 自覚
やっぱりついてきて正解だった。
今までもこういう風に近づいてくる奴がいたんだろうか。
今日見た限りフーシャ村ではアイツくらいだったが、端町には長いこと通っている。もしかしたら悪い虫の一つや二つ付いているかもしれない。
また尾行する必要があるなとやや不穏な考えを巡らせていたエースの耳にふふ、と笑う小さな声が届いた。
「……何笑ってんだよ」
「いや、だってなんか」
懐かしくて、と笑う水琴に今度はエースが首を傾げる。
懐かしいとはどういうことだろう。
それについては明言することなく、水琴はその場で膝を折りエースをそっと覗き込む。
「ヤキモチ?」
「___ばっ、」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
一拍遅れて理解し、エースは途端に真っ赤になる。
「ばっか、違ェよっ!なんでそーなんだよ!」
「えぇー?そうなの?」
それは残念、と笑う水琴の様子にからかわれたことに気付く。
「っいつか海に出るんだから、ここで好きなやつとかできても困んだろうが」
苦し紛れの言い訳を何とか口にする。
そんなエースの言葉に水琴は一瞬目を丸くすると、優しく微笑んだ。
「__心配ないよ」
恋人を作る気は無い、と暗に告げる水琴の瞳にエースは誰かの影を見る。
ここでは無い何処か。
エースの辿り着けない海にいる誰か。
「帰りを待ってくれている人がいるから」
その声に。眼差しに。
桜の時の勘違いとは違う、本物の気持ちを見つけた。