第91章 自覚
「でも少し説明しただけでこんな綺麗に作ってくれるなんて」
「作りはそんな複雑じゃないし。ご期待に添えていればいいんだけど」
「十分過ぎるくらいですよ!」
お代を、と懐を探る水琴を男は慌てて両手で制する。
「いやいや、仕事の片手間にしてただけだからお代はいらないよ!」
「そういう訳にもいかないんで」
「……それじゃあ、その、今度よかったら食事でも__」
「水琴、帰るぞ!」
さすがにこれ以上は見過ごせない。
少し強めに手を引けば水琴は慌ててエースについて足を動かし始めた。
「ちょっと!急に引っ張らないでってば。
ごめんなさい、ヨウさん。お代はまた今度!」
最後まであの男を気遣う様子に苛立ちを覚えながらエースは男が見えなくなるまでずんずんと進んでいく。
既に山に差し掛かった途中の道で、ようやくエースは足を止めた。
「__お前な!もう少し警戒しろよ」
「え?」
振り向き怒鳴れば意味が分からないというように水琴が首を傾げる。
「さっきのヤツだよ。明らかお前狙いだったじゃねェか」
「ヨウさんが?そんなことないでしょ、ただフライパン作ってくれただけだし」
「仕事でもなく善意だけでそんな面倒なことするかよ」
「だからお金は払うって言ったでしょ」
「向こうはそんなつもりじゃなかったんだっての」