第91章 自覚
「お、水琴ちゃんじゃないか。今日はどうしたんだ」
「こんにちは。今日は薬草を持って来たんですけど、ハギさんいます?」
早速村人Aに話し掛けられた。会話の端々からマキノのところの常連客だと分かる。
二人が楽しげに話をする間、エースは手持ち無沙汰に傍へ立ち話が終わるのを待つ。
村へ下りることが増えたとはいえ、水琴ほど頻繁に来るわけでもなければ誰彼構わず交流をしているわけでもない。
村人で覚えている人間などマキノと村長くらいだった。
ようやく話が終わりまた明日、と手を振り別れる。きっとあの常連客は明日もマキノの店へ行くのだろう。
その後も様々な人間に声を掛けられ、ハギというこの村唯一の医者の所へ薬草を卸しに行く頃には予想通りカゴは貰った野菜でいっぱいになっていた。
念の為小さなカゴを二つにしてきてよかった。いつもの大きなカゴ一つだったらとてもじゃないが水琴には運べなかったに違いない。
「しんどいのに持ってもらってごめんね」
「その為に来たんだから謝る必要ねェだろ。そんな重くねェし」
申し訳なさそうに言う水琴にエースはなんてことないというように返す。
実際これくらいの野菜だったら重さの内になんか入らない。普段運んでる獲物の方がずっと重い。
ピンピンしているエースを見て凄いねほんと、と遠い目をする水琴はもう少し鍛えた方がいいと思う。