第91章 自覚
「エース?寒いでしょ、中に……」
「___っっ」
よく分からない衝動に耐えかねてエースはその場から逃げ出す。
全速力で走り去り、小屋が見えなくなってもエースは走り続けた。
やがて海の見える崖の上でようやくエースは足を止める。
「……なんだ……?」
心臓がうるさい。
冬だというのに、頬は熱を持ったように熱かった。
今まで水琴の寝巻き姿なんて何度も見てきた。
それこそ同じ屋根の下で寝食を共にしていた頃は寝起きに遭遇するのだって珍しくはなかった。
でも、こんな感情は知らない。
__気になるんだろ
昼間のサボの言葉が唐突に呼び起こされる。
違う。そうじゃない。
アイツに向ける感情は、そういうものでは無かったはずだ。
だってアイツは。
闇の中に光をくれた人で。
前を向くきっかけをくれて。
意固地に強さを求めるエースに、理由を与えてくれた存在で。
だから、そう。
気になるのは、そんな理由じゃなくて。
ただ、アイツが頼りなくて、危なっかしいから。
ちゃんと見ていてやらないとと、そう思って。
__いや、違う。
ぐるぐると己の中に浮かぶ言葉をエースは自身で否定する。
違う。そうじゃない。
頼りないなんてことは無い。
確かに少し危なっかしいところはあるが、初めて会った時から今まで、頼りにならないなんて思ったことは一度として無かった。
むしろいつも守られてばかりで。それがとても歯がゆくて、悔しくて。
いつだって少し先を歩き、遠くを見ているその隣に並び、その目に映る存在に、少しでも早くなりたくて。
だからそれは。
それは__?
「………?」
ちかりと目に光が反射し、その眩しさにエースの思考は途切れる。
見れば水平線から白い光が線となり現れるところだった。
「徹夜かよ……」
結局寝れなかった、とエースは肩で大きく息を吐くのだった。