第91章 自覚
ほうほうとフクロウの鳴き声が木霊する深夜過ぎ。
月明かりが差し込む根城内で、エースはごろごろと寝返りを打っていた。
「……眠れねェ」
いつもなら一度眠れば朝まで起きることなんてないのに、今日に限って不意に目が覚めてしまった。
もう一度寝直そうとしたものの、一度去った眠気はなかなか戻ってきてくれない。
呑気に寝こけている兄弟たちを羨ましそうに見つめ、エースは観念して身を起こした。
眠れないのにただごろごろと転がっているのも時間の無駄だ。
どうせ寝られないなら少し散歩でもしてくるかとエースは根城を抜け出す。
草木すら眠りに落ちたような時刻にうろついたことはエースもあまりない。少し新鮮な気持ちで月夜の森をうろうろと彷徨う。
「__それにしても、アイツほんと大丈夫なのかよ」
目が冴えてしまった原因を思い出し、誰もいないことをいいことにエースは燻っていた不満を零す。
危機意識が欠如していると信じているエースは、今この時も男所帯の中で寝起きしている水琴のことが途端に心配になってきた。
既に家族として付き合いの長いダダン一家の山賊らが水琴に手を出すとも思えないが、酒でタカが外れた場合ついうっかりということも考えられる。
風の能力者である水琴をそう簡単にどうこう出来るわけはないのだが、エースの頭からはその事実は抜け落ちてしまっているらしい。