第91章 自覚
「あいつ、ぜってーおかしいだろ」
次の日。水琴から片付けを言いつけられた三人は昨日のままの風呂場で散らばる木片などを集めていた。
ガラスだけは事前に水琴が片付けておいたようだが、それ以外のものも改めて見れば結構酷い有様だ。
風呂好きの水琴が怒るのも尤もだよな、とサボは大人しくシャンプー液のこびりついた床をブラシでこする。
「聞いてんのかよサボ」
「聞いてるよ。水琴のことだろ?」
「そう!三、四歳のガキ相手じゃねェんだから、もう少し考えろって思わねェか?女としての自覚ねぇんじゃねェの」
「まぁ、水琴にとっては俺たちだってガキだろうしなぁ」
「いーや!男所帯で過ごしてるから麻痺してんだぜきっと。ここに来る前は海賊だしな」
「さすがにそれはないだろ」
水琴と知り合い五年になるが、そのあたりの分別がついていないようには見えない。
だがエースは自分が子ども扱いされていることを認めたくないのか、そうに決まってると大変ご立腹だ。
年上を好きになるって大変だなぁと思うも、それを口にしたところで本人は決して認めない。
なんとも面倒な恋心を抱いているものだ。
だがこのままずるずると誤魔化したままでいては不利になるのはエースだろう。
水琴はサボから見ても魅力的な女性だ。一目で相手を恋に落とすような目の覚めるような美貌を持っているわけではないが、野に咲く花のような、穏やかな陽だまりのような心地よい空気を持つ。
だがそんな穏やかな内面だけかと思えばそうでは無く、燃え盛る炎のような強い意志を唐突に覗かせることもある。
外面ではない、内側から湧き上がる鮮烈な魅力。
長く付き合えば付き合う程、その虜となる男は多いだろう。