第91章 自覚
文句を言おうと立ち上がりかけるエースに正座、とぴしゃりと言い放つ。
やらかしてしまった自覚はあるのか、開きかけた口を閉じエースは大人しくサボの隣で再び正座した。
「だ、だからっていくら何でも……お前一応女だろうが!」
「一応って何。立派に女ですけど!」
「んじゃあそんな恰好で堂々と仁王立ちしてんじゃねェよ!」
「大事な所は隠してるでしょうが!」
「際どいんだよバカがっ!!」
真っ赤な顔で今度こそエースが立ち上がる。
その横ではサボが正座をしたまま頭を抱えていた。
「少しは慎め、この破廉恥女!」
「は……はぁっ?!」
あまりの言い草にカチンとくる。
叱られている側になぜそこまで言われないといけないのか。
公衆の面前でこんな格好をしていればそう言われてもしょうがないが、ここは脱衣所で目の前にいるのはエースたち三人だけだ。
そもそも、十年後には半裸で過ごしている男にそんな風に言われる筋合いはない!!
だがそんな言葉を今のエースにぶつけるわけにはいかず、憤りを乗せる言葉に迷う内にエースはさっさと逃亡してしまった。
「あっ!ちょっと待ちなさい、まだ話は……」
「くしゅんっ」
逃げる背中に怒鳴る言葉は小さなくしゃみに中断される。
水琴同様タオルにくるまっていたルフィが大きくぶるりと震えた。
「水琴。寒ぃ」
「あ、そうだよね!ごめん。着替えよっか」
さすがの水琴も凍えるルフィを放置して説教を続けるほど鬼ではない。
ようやく怒りを引っ込めた水琴を認め、サボはやれやれと立ち上がりルフィを抱え上げた。
「ルフィは俺がやっとくから、水琴も着替えろよ。本当に風邪引くぞ」
確かに湯で温まった身体は完全に冷えてしまっていた。
もう一度温まり直したいところだが、この惨状ではしばらく風呂場は使えないだろう。
溜息一つと共に肩を落とす。
「ごめん、そしたらルフィお願いね」
おう!と笑顔で立ち去るサボを見送り水琴もまた着替えるためにタオルへ手を掛けた。