第14章 異世界の民
「ん、あァちょいと連れをな」
「この街広いからはぐれると大変よね。ウラ街に行っていなければいいんだけど」
まさかそこから来たとは言えず視線を彷徨わせる。
ふと、その目が高い塔を捉えた。
「…なァ、あれなんなんだ?」
島の奥。海軍基地の背に高々とそびえる塔を指差す。
「あぁ、あれはDr.ベルクの塔よ」
「Dr.ベルク?」
「なんでも十年ほど前にこの島に移り住んできたらしいけど、離れ小島にあの塔を建てて一人で住んでるの。ちょっと変な人だけど、たまにふらっと街まで降りてきて発明品を披露したりガラクタを拾って帰ったりしてるわ」
塔まで行きたいなら海軍基地の裏から伸びる一本橋を行くといいわよ、と教えられる。
聞いておいてなんだが、水琴がいそうには思えないので礼だけ言って別れる。
再び振り出しに戻ってしまった。
「…一度戻ってみるか」
もしかしたら待ち合わせの場所にいるかもしれない、とエースは元来た道を戻り始めた。
***
柔らかいソファの感触。
ここ、どこ……?
ゆるりと意識の浮上した水琴はゆっくりと目を開けた。
霞む視界に映るのは、執務室のようだった。
上品な作りの長机。
壁には背の高い本棚。
インテリアとして置かれているハイスタンドテーブルには小さな水槽が置かれ、ゆらゆらと綺麗な魚が泳いでいた。
室内の照明は薄暗く、しんと静まり返っている。
「そうだ、私あの時誰かに…」
入り江で後ろから襲われた状況を思い出し、一気に背筋に寒気が走る。
「気が付いたかい」
かちゃりとドアの開く音がし、男の声が響いた。
ドアから入って来たのは白衣を着た男。
「……あなた、誰ですか」
うすら寒い笑顔からはとても好意は感じられない。
無意識に水琴はその男と距離を取ろうと立ち上がる。
ふらりと足元がふらついた。
「あぁ、まだ動かない方がいい。薬が完全に抜けきっていないだろうから」
「あなたが私を連れてきたんですか?」
きっと睨みつける。水琴の視線にも動じず、男はゆっくりと頷いた。
「そうとも。私はずっと、君を待っていた」
“異世界の民”
呟かれた名称に心臓が跳ねる。