第14章 異世界の民
「ったァく、あの過保護め…」
ウラ街へ消えていく後ろ姿を見送り、サッチは溜息を吐く。
元々面倒見の良い方であるが、水琴に対するエースの心配ぶりは異常である。
自分が引っ張り出してしまったという負い目もあるんだろう。
いつかその心配性が空回ってしまわないか心配になる。
しかし、確かに少しおかしい。
水琴の性格であれば、約束の十分前くらいには待ち合わせの場所にいそうである。
「…マルコに報告しとこうかね」
***
オモテ街の通りを怪しまれない程度に足早に歩く。
水琴が好きそうな店を覗くが、どこにも姿は見えなかった。
「どこにいんだよ、あいつ…」
段々と焦りが心に積もっていく。
別の通りへ行こうと道を曲がった時、海兵を見つけて咄嗟に路地の陰に身を隠した。
そして今の服装であれば別に隠れる必要はなかったことに後から気付く。
何やってんだおれ、と呆れるがもしかしたらエースの顔を知っている奴もいるかもしれない。
念には念をという奴だ、と自分を納得させる。
「見て、大佐よ」
「今日も凛々しいわね」
ついでとばかりに様子を窺っていると近くの住人たちからひそひそと声が聞こえる。
「この前も海賊の一味を捕まえたんですって」
「しかもお一人ででしょ?勇敢だわ」
聞こえてくる噂話に耳を潜める。
通りに目をやれば部下に指示を出す目つきの鋭い大佐の姿が見える。
確かに背が高く、がっしりとしてはいるが、どちらかというと先陣切って暴れるというよりは指揮官というようなイメージが付き纏い、海賊団を一人で壊滅させられるようには見えない。
「…こりゃなんかあるな」
要注意人物として頭に刻みつけ、エースはそのまま他の通りへ抜ける。
「えっと、後は…」
ぺらりと手に入れたパンフレットをめくる。
予想以上に広いマップを見て眉を潜めた。
「…ほんと、あいつどこうろうろしてんだよ」
「あら、人捜し?」
マップを睨みつけていたエースに後ろから声が掛かる。
振り返れば水差しを片手にエプロン姿の店員がエースを見つめていた。