第91章 自覚
ばきぃっ!!
嫌な音を立てて脱衣所へと続く扉が浴室へと吹き飛んでくる。
同時に転がり込んできたのは盃兄弟の末っ子。
ゴムまりのように壁に当たりあちこち跳ね回った身体は湯船の中に盛大に頭から突っ込んだ。
イルカも真っ青の水しぶきが上がり、せっかくタオルを巻き水気を取っていた髪が元通りぐしょぐしょとなる。
「ってルフィ!大丈夫?」
浮かび上がってこないルフィを慌てて引っ張り上げる。
全身沈んでしまったことで力が抜けてしまったんだろう。だらりと猫のように身体を伸ばしたルフィは水琴の腕の中で目を回していた。
辺りを見渡す。綺麗に並べられていたシャンプーやリンスは崩れ落ち床に散らばり、桶はひっくり返り割れている。
木片となった扉には湯が染み込み、ガラス窓は割れ周囲に散乱していた。
「あっちゃあ、だから言わんこっちゃない」
「お前だってノリノリだったろ!……げ」
背後で実行犯の二人が慌てふためく声がする。
「エース、サボ……取り敢えず正座で」
吹き込んでくる風のように冷たい、ひやりとした声で水琴はそう告げた。
***
「いい?私言ったよね。家の中ではふざけない、走らない、ルフィを投げ飛ばさないって。それなのにどうして全部破るの?二人は十歳にもなって約束事一つ覚えていられないの?」
「そんなことより、おまっ……服着ろよ!」
「タオルはちゃんと巻いてます。話を逸らさない」
「いやぁ、でも水琴。さすがにその恰好は……ほら、風邪引くし」
「だめです。こういうことはやった直後にきちんと叱らないと入らないの」
「おれらは犬かっ!!」
「言っとくけど犬の方がましだからね」
バスタオルを身体に巻いた状態で水琴は正座する二人を冷たく見下ろす。
いくら大判のタオルとはいえ風が吹き込む脱衣所では心許ない装備ではあるが、ここで着替えるからと二人を追い出してはなぁなぁとなる可能性もある。
年長者として叱るべき時は叱らないと、と水琴は心を鬼にして対峙していた。