第90章 船長勝負
だけど水琴は?
水琴の純粋な身体能力がどれくらいのものかエースはよく知っている。
満足に獣も狩れなければグレイターミナルまで行くにも息が切れる。
悪魔の実の能力者という一点以外は、海賊だと信じられないほど普通の非力な女なのだ。
ぎりと唇を噛む。
この五年で随分と強くなったつもりでいた。
今じゃそこらをうろつく山賊や海賊にも負けない自信があった。
けれど蓋を開けてみれば、たかが獣一体一人で満足に倒せず。
それどころか、自分たちの意地のせいで大事な存在を危険に晒している。
兄弟たちに目をやる。二人もエースと同じことを考えているようだった。
雨にも消せない闘志を燃やす二人に対し、エースは口を開く。
「__ルフィ。お前この雨の中でも身体は伸びるのか」
「っああできる!でも力入んねェから自分じゃ無理だ……」
「伸びるなら十分だ。お前らちょっと耳貸せ」
ごにょごにょとエースは二人にとある作戦を伝える。
「サボ、いけると思うか?」
「いけるさ、俺たちなら」
「よし」
立ち上がり水琴の消えた森の向こうを見る。
「行くぞ!」
「「おう!!」」
先程までの比ではない、決意に満ちた掛け声で三人は駆け出していった。
***
狭い木々の間を縫うように水琴はひたすら走る。
既に息は上がり、限界を超えていた。
しかしそれでも水琴は走ることを止めることが出来なかった。
背後から木々を薙ぎ倒す音が迫る。
少し横に逸れた開けた場所からは大地を蹴り走る音が響いた。
雨で匂いが薄れ撒けるかと思ったが、どうやらそれは甘い考えだったらしい。
先程から雨の勢いは弱まり、霧雨となっている。
そのせいで水琴は森に潜むことが出来ず、ただただ逃げるしかなくなってしまっていた。