第89章 もうひとつの家族
おそらく体勢を立て直すまでに数十秒はかかるはず。
その隙に包囲網さえ抜けてしまえば、後方からの攻撃を防御するだけなら水琴でも可能だ。
「でも、銃も持ってるんだ。もし撃たれたら……」
「大丈夫」
不安がる村人の手をぎゅっと握る。
「私が絶対、貴方に傷一つ付けさせやしません」
「……分かった」
力強い言葉に、村人もようやく覚悟を決める。
信じるよ、と頷く村人に水琴もまた覚悟を決めた。
立ち上がり、風の向こうを睨みつける。
「__いきます」
風を纏い、構える水琴の耳に雄たけびが飛び込んでくる。
一体何事かと水琴は村人と顔を見合わせた。
「くらぁぁあああ!!そこにいんのは水琴だね!仕事ほっぽりだしてなに遊んでんだい!!」
「ダダンさんっ?!」
なんで?!と慌てて時計を見れば確かにいつも戻る時間は僅かに過ぎている。
それにしては様子を見に来るのが早すぎる。
いったいどういうことだろうと水琴は竜巻の中で首を捻った。
それは山賊たちもまた同じだったようだ。突然現れたダダン一家に場は騒然としていた。
「てめぇはダダン!海軍と慣れ合ってるヘタレ山賊がいったい何しに俺らの縄張りに現れやがった!」
「だぁれがヘタレだこの負け犬がっ!アンタらの縄張りなんか知ったこっちゃないよ!あたしはそこのバカ娘迎えに来ただけだ!」
「俺らのメンツつぶした女をそう簡単に引き渡すか!」
「尻尾巻いて山に帰れ山猿がっ!!」
風の向こうで繰り広げられる程度の低い言い合いに力が抜ける。
しかしどうしたものか。
ダダンたちが現れたとなると先程の風で全部吹き飛ばそう作戦は使えない。確実にダダンたちを巻き込んでしまう。
むむむと唸っていれば山賊たちの悲鳴が聞こえた。
まさかダダンたちがやられてしまったのかと青ざめるも、その合間から聞こえる景気のいい鉄パイプを振るう音と楽しそうな子どもの声に一気に水琴は事情を察した。