第89章 もうひとつの家族
破裂音が空に木霊する。
勝利を確信していた頭の表情が驚愕に歪んだ。
「んなっ……!」
その視線の先でゆらりと風が揺れる。
鋭く伸びた風の矢は的確に頭のナイフを持つ手と馬の足元を射抜いた。
頭は痛みにナイフを取り落し、馬は驚きで前足を大きく振り上げる。
バランスを崩し落ちた村人を頭を打たないよう支え、水琴はすぐさま自身を中心に巨大な風の渦を展開した。
「竜巻っ!!」
周囲にいた山賊は風に吹き飛ばされ、風の防壁の内には水琴と村人だけとなる。
ここまで僅か十秒。緊張で止めていた息を水琴は安堵と共に大きく吐き出した。
「うまくいってよかった」
「あんた、足を撃たれたんじゃ……」
「私風人間なんで、銃は効かないんです」
もちろん山賊がそんなこと知っている訳もない。
“撃たれて無傷の水琴に驚いている隙を狙い人質奪還作戦”はどうやらうまくいったようだ。
持っていたナイフで拘束を解く。これでひとまず動くことは出来るようになった。
ただ問題はここからだった。
いつまでも竜巻の中に閉じこもっているわけにもいかない。
既に山賊も体勢を立て直し、風が弱まるのを待っているだろう。
あの人数の包囲網を無傷で抜けるには、平和な村で育った村人と実戦経験が少ない水琴ではやや心もとない。
「倒すしかないかな……」
しかし守りながらの戦いは水琴にも荷が重い。
せめて村人の安全が確保されればどうにかできるかもしれないが、だだっ広い街道のど真ん中。周囲を完全に囲まれてしまっていては安全地帯も何もない。
「ど、どうする?」
「__こうしましょう。私がまた風で一回山賊たちを蹴散らします。その隙に貴方はまっすぐ村まで走ってください」