第89章 もうひとつの家族
呼び止めるマキノの声を振り払い水琴は駆け出す。
少し村から離れれば向こうから馬のいななきが聞こえた。
あの時よりも多い人数に報復に来たのは本当のようだと水琴は顔をしかめた。
先頭の馬に縛られ身動きの取れない村人が腹ばいに乗せられているのを見つけ水琴は立ち止まる。
「その人を放して!」
「あ、あんたマキノちゃんとこの……!」
「出たな、“台風女”!」
「その呼び方止めてくれる?」
「うるせぇ!お前のせいでこっちは縄張りを取られるわしばらく身を隠さなきゃいけないわで散々だったんだ!」
なるほど。五年も時間が空いたのはどうやらこの街道を別の山賊に奪われていたからだったらしい。
時系列的にルフィを人質に取ったあの山賊にでも奪われたのだろう。シャンクスに倒されたごたごたで再び返り咲いたらしい。
そのまま大人しく堅気に戻っていればよかったものを。
「あの日お前が現れなきゃこんなことにはなってなかったんだ!」
「五年前の恨み、今ここで晴らしてやる!」
「ねちっこい男は嫌われますよ」
「生意気な口きいてられんのも今だけだ。出ろ!」
頭の言葉に周辺の草むらから残りの仲間が顔を出す。
囲まれた状況に水琴は顔に出さないものの焦りを覚えていた。
水琴一人ならばどれだけ囲まれたって逃げ出せる自信はある。
だが向こうには人質がいる。下手に動けば水琴が風を放つよりも早くその首筋に当てられたナイフが彼を切り裂いてしまうだろう。
ご丁寧に逃げにくいように足首まで固定されている。用意周到、いや陰湿なことだ。
「この男を助けたいなら、妙な技は使わないことだな」
「………」
しばし考え、水琴は威嚇として纏っていた風をかき消す。
その様子に頭は勝利の笑みを浮かべ、横の部下に合図をした。
銃口が水琴を捉える。
「安心しろ。そう簡単には殺さねぇよ。……まずは、足だ」
銃口を睨みつけ、水琴はその時を待った。
勝負は、一瞬。
その一瞬をとらえるため、水琴はじっと息を殺す。