第89章 もうひとつの家族
「大変だ!」
その日も忙しい昼時を乗り切り、次の客入りまでマキノと二人お茶を楽しんでいたところに村人が慌てて飛び込んできた。
よく昼を食べにくる常連客の一人だ。その鬼気迫る表情にどうしたんだろうと水琴はカップを置く。
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「山賊が出た!街道だ。こっちに向かってる!」
「えっ、また……?!」
村人の言葉にマキノの表情が変わる。
ほんの半年と少し前、山賊にルフィが人質に取られた事件は村人の記憶に新しいだろう。
あの時はシャンクス率いる海賊が動き事なきを得たと聞いたが、今はシャンクスもガープもいない。
「いったいどうして__」
「なんか、“台風女を出せ”ってよく分かんねぇこと言ってて……」
「っ?!」
飛び出た要求に水琴は目を見開く。
言い方は酷いが、まず間違いなく水琴のことだろう。
なんで私……?と浮かぶ疑問は突如蘇ったある日の記憶で合点がいった。
街道、山賊、そして“台風女”
十中八九、エースとラーメンを食べに行った帰りに遭遇した山賊だろう。
適当に痛めつけた後、逃げ出したので放っておいたがまさか五年も経って報復に来るとは思わなかった。
「店を閉めてじっとしてるんだ!」と言い残して他の住民に知らせに出ていった村人を追うように水琴は席を立った。
「水琴?どこへ行くの」
「ちょっと見てくるね。多分台風女って私のことだし」
「だめよ、危険だわ!相手は武器を持っているのよ」
「だからだよ。このままだと怪我人が出ちゃう」
「でも、あなたは……!」
「忘れた?マキノ」
止めようとするマキノを振り返り安心させるように強気の笑みを浮かべる。
「私は、海賊だよ」
相手の狙いは私だ。
ならばこのままここに閉じこもっていたら村人にどんな被害が及ぶか分からない。
なにより、ルフィの故郷をこれ以上山賊に荒らされるわけにはいかない。