第88章 風邪には甘いレモネードを
「ごめんね、仕事忙しいのに」
「気にしないで。水琴が倒れたらこの家は立ち行かなくなるんだから」
早く良くなってね、と言うマキノに微笑み粥を口に運ぶ。
弱った身体にマキノ手製の粥は心地よく染み渡り、活力が湧いてくるようだった。
「薬も用意してあるから。食べ終わったら飲んでね」
「分かった」
「それじゃあ__あら」
ドアを開け帰ろうとしたマキノが何かに気付きしゃがみ込む。
どうしたんだろうと窺っていると水筒を手に持ち近寄ってきた。
「これ、あの子たちからみたいよ」
差し出されたそれに首を傾げる。
蓋を開けてみればふわりと甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった。
「それ、レモネードね」
「レモネード?」
そんな洒落たもの、ダダン一家には置いていない。
もちろんマキノが用意してきたものでもない。
どういう風にかは分からないが、あの三人が用意してくれたのだろうと水琴は推測を立てる。
「水琴のこと、大好きなのね」
「__そうかな」
照れくさそうに微笑む。
湯気のたつそれを一口含む。
生姜がきつく、やや苦味の残る液体がゆっくりと腫れた喉を滑り落ちていく。
「__美味しい」
飲み物以外の理由で内から溢れる熱をほっと息と共に零し。
早く良くならないとな、と水琴は水筒を胸に抱いた。