第2章 始まり
水の中、井戸に落ちたと理解した時には辺りは真っ暗で上も下も分からない状況だった。
息苦しさに無意味に手足をばたつかせる。
しかしそれが余計に身体から酸素を奪い、水琴の意識は急に遠のいていった。
__あぁ、私はここでひっそりと死んでしまうのか。
ちゃんとみんなにお別れ言いたかったな…
手足から力が抜け、意識が遠のく寸前。
何かが私の手に触れた。
その瞬間手首を持たれ一気に引き上げられる。
ざばぁ!と音を立て急に戻ってきた酸素を必死に吸い込みながら、光でちかちかする目を周囲にやった。
最初に目が合ったのは私の手首を持った男の人。
片手で引き上げているだけあり、がっしりとした上半身を惜しげもなくさらしまさに海の男!といった感じの彼は驚いたように目を見開き固まっていた。
次に目に入ったのはその傍に立っていたコックさんみたいな服を着た人。
立派なリーゼントが実にすばらしい。
しかしなんだろう。どこかで見たことがある様な気がする。
そのまま周囲を見渡すとたくさんの視線を感じ、直前までの状況とかなり違うことに気付いた私は礼を言いながらも段々と語尾が弱くなっていった。
え、なにこれ。ここどこ。
「「「「女ぁぁぁあああ???!!!」」」」
突然の大合唱。それを皮切りにあちこちで一斉にざわつき始める男たち。
「おい、女だよなんだあれ!」
「まさか、異世界人?」
「人まで出てくんのかよ!何でもありだな!」
「ってかしゃべったぞ、今!」
怖い。体格のいい成人男性が一斉に自分を見て口々に騒ぐ様子がこんなに怖いと思わなかった。しかもよくみると腰にナイフみたいなのつけてたりするし!何あれ本物?
よくみると首やら腰やらにじゃらじゃらとアクセサリーをつけている人もいて、なんだか某映画の海賊みたいな…
あ!ペンダント!!
はっとして手を見ればそこにはしっかりと握られたペンダントがある。
ほっと胸をなでおろすと、目の前の男性と目が合った。
「あ、あのう……」
「お、おう」
一人で考え込んでいてもらちが明かない。とりあえず目の前の未だ私の手首をつかんでいる男性に声を掛けた。
よく見るとそんなに年も変わらなそうだ。頬に散ったそばかすが少し可愛らしい。