第88章 風邪には甘いレモネードを
材料は大きく分けて三つ。
レモン、蜂蜜、生姜だ。
コルボ山は実り多い山だ。そして今の時期は秋。奇しくも三つとも採取に適した時期である。
レモンと生姜は群生地さえ知っていればすぐに調達できる。
問題は蜂蜜だ。
大きな木のうろを覗き込む。
そこには大きく成長した蜂の巣があった。
このタイプの蜂は一度刺すと死んでしまうため滅多なことでは人を刺さない。
この時期ならば気性もそこまで荒くなく、ここまで巣に近づいても蜂は辺りを飛び回るものの襲ってくる様子は見られなかった。
だが、蜂蜜を採ろうとするならば巣の上部、蜂蜜貯蔵部の一部を切り取らなければならない。
流石にそこまで許してくれるかどうか、やったことの無い三人は自信がなかった。
「……どーする?」
「どーするって……やるしかねェだろ」
「そーっとだぞ。そぉーっと」
巣の出入口を刺激しないよう慎重にナイフを入れる。
断面からは蜂蜜が詰まっている証拠の蜜蝋が覗き、同時にわらわらと蜜蜂が溢れ出てきた。
「おわっ!」
「馬鹿エース!ナイフ持ったまま暴れんな!」
「わわ、くすぐってぇ!」
周囲を飛び回る蜜蜂に慌てて距離を取る。
刺された様子はないものの、あれだけの大群に飛び回られると心臓に悪い。
「水琴がいれば風で吹き飛ばしてくれるのにな」
「その水琴が寝込んでるんだからしょうがねェだろ」
「風が起こせればなー」
うぅんと頭を抱える三人は同時に何かを思いつき顔を上げる。
「「「 風だ! 」」」