第86章 家族の在り方
「初めて会ったときね、ルフィはまだ赤ん坊だったの」
ガープの腕に抱かれた小さな赤子。
まだ十くらいの少女だったマキノは、自分よりももっとずっと小さな命に恐々と触れた。
幼い指が、マキノの細い指を懸命に握る感触を今でも覚えている。
マキノ、と。
本当の親を知らず、自分を姉のように慕ってくれるルフィを幼心に守ろうと誓いを立て数年。
ずっとずっと守らなければと思っていた小さな弟は、いつの間にか立派に自分の足で立ち歩もうとしていた。
「いつの間にか、こんなに逞しくなって。
__もう、姉代わりも卒業かもね」
「それは違うよ」
ほんの少しの寂しさを胸にそう零せば、隣で水琴がそっとマキノの言葉を否定する。
「確かにルフィは強くなってる。マキノの手を離れて、エースやサボと一緒に新しい世界に踏み出そうとしてる」
でもね、と水琴は手を止めマキノをじっと見る。
「それは、マキノが必要じゃなくなったわけじゃないんだよ」
むしろ逆で。
マキノがいるから。
帰る場所があるから、ルフィはあんなに力強く前を向いて駆けていけるのだと。
「__って、私も最近気付いたんだけどね」
照れ臭そうに笑う水琴は、離れていてもマキノは家族だよと続ける。
「いつだって会いに来てよ。歓迎するから」
「……ありがとう」
ガープさんには内緒でね、と二人はひっそりと笑い合った。
***
「マキノー!また来てくれよなっ」
ぶんぶんと手を振り見送ってくれるルフィに手を振り返す。
「えぇ。また来るわねルフィ!」
ルフィはきっと、これからもたくさんの世界を見るだろう。
夢の通り、いつか海賊として海へ出ていくかもしれない。
その時は、笑って送り出そう。
いつか「ただいま」と笑顔で帰ってくる時の為に。