第85章 雨降って地固まる
「……ありがとな」
小さな声で告げられる感謝に水琴は目を細める。
「ううん。どう致しまして」
「でも!次は一人で勝ってみせるんだからな!」
「うんうん。エースならできるよ。…でもね、別に一人で勝たなくてもいいんだよ」
一人で強くあろうとする小さな姿を優しく見つめる。
「エースには心強い二人の味方がいるんだから」
「………」
同じ志を持ち、肩を並べる存在と。
似ているようで異なる、守り、そして支えられる存在。
エースはもう孤独ではない。
だから、そろそろかなと水琴は思っていた。
この時代に飛ばされた理由は分からないが、何か意味があるというのならきっとそれはエースに関わることに間違いない。
そして、今のエースにはもう水琴は必要ない。
もういついなくなっても大丈夫だ、そんな気持ちを下地に出た言葉だった。
「___三人だろ」
「え?」
だが、そう思っていたのはどうやら水琴だけのようで。
意識をエースに戻せば不満そうに眉を寄せる鋭い視線とぶつかった。
「三人!勝手に減らしてんじゃねェよ」
「………」
もう一回寝る!と小屋へ戻るエースの背中を見送り、水琴は手に持っていたシーツへ顔を埋める。
「……ふへへ」
ふにゃりと崩れた相貌はちょっと他の人には見せられない。
「あーもう」
エースはずるい。
早く帰りたい。帰らないとと気持ちは日増しに急いているというのに。
ふとした瞬間に、もう少しここに居たいと同じだけ思わせてくれる。
「敵わないなぁ」
きっと、どの時代のエースに会っても水琴は敵わないだろう。
惚れたものの負けなのだ。結局は。
「……もう少しだけ、よろしくね」
あと少し、あと少しだけ。
心の隅で願いながら、今日も水琴は彼らを見守る。