第14章 異世界の民
「一人?」
島の港に停泊したモビーディック。
そこで水琴はマルコから思いがけない言葉をもらい目を丸くした。
「あぁ。聞いてると思うがここは海軍の領域だ。俺達のような明らかに海賊風の奴らと歩くより、水琴一人の方が目をつけられなくて逆に安全だよい」
「そうかもしれませんけど…」
マルコの言葉に納得するが、やはり不安は付きまとう。
甲板から見える町並みは、どう見ても治安が良いとは言い難い。
「心配しなくても、オモテまではクルーが付いて行くよい」
「あ、それなら大丈夫ですね」
現在モビーが停泊しているのはウラ街と呼ばれる場所。
この島は一見治安がいいように見えるが、大きい街にはよくあるようにオモテ街とウラ街に分かれており、両者の治安は雲泥の差がある。
オモテ街は海兵の巡回が定期的にあるため治安もよく、観光客も多い半面ウラ街は海賊やごろつきなどがごろごろしている。
さすがにウラ街を一人で歩く勇気はない水琴はマルコの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、オモテでもガラの悪い連中に絡まれないとも限らねぇ。
自由行動は三時間。
異世界の情報があってもなくても、三時間経ったら一旦戻ってこいよい」
分かったかよい?と言われはい!と元気よく返事をする。
「水琴、気をつけてねー」
「ハルタさん、行ってきます!」
何かお土産買ってきますねーと見送ってくれるハルタにぶんぶんと手を振る。
「ほら、ちゃんと前見ろよ」
こけるぞ、とエースがいつまでもモビーの方を見ている水琴の腕を引く。
「マルコも言ってたけど、三時間経ったらここに戻ってこいよ。迎えに来るから」
「分かってますって」
「本当に大丈夫か?やっぱり調達組の奴らと一緒に回った方が…」
「仕事の邪魔しちゃうじゃないですか!ただでさえ海軍がいるからあんまり長居出来ないのに、私の用事に付き合わせられませんって!」
「でもよォ…」
いまだぶちぶちと言うエースにおかんか!と突っ込みたいのをこらえ、オモテ街へ続く道でエースを振り返る。
「それじゃ、行ってきます」
「…気をつけろよ」
「はい!」
不安がるエースをよそに、初めての一人での外出に意気込む水琴はオモテ街へ一歩踏み出した。