第85章 雨降って地固まる
「正義だ悪だ掲げるつもりもねェし、誰かのために命投げ出せるほどお人よしでもねェよ。
……ただ、おれはおれのものに手を出すお前が気に入らねェ」
おれのものとは宝のことか、それとも。
「それに誓ったんだ。おれはてめェらみてェなくそ海賊にはならねェ。
本物の海賊になるって」
力に屈さず、自分の信念を貫き真っ直ぐに立つ小さな後ろ姿を想う。
「ここでお前に屈したら、おれはもう本物の海賊になれねェ。
__それは死ぬよりも許せねェ」
絶対的有利な立場にいるはずのポルシェーミは、鉄パイプを持ちこちらを睨むその姿に無意識に一歩後ずさった。
向けられる視線が、そこに込められる強烈な意志の炎が、ポルシェーミを圧倒する。
見かけは己の半分にも満たない小さな子どもだというのに、まるで巨大な獣を前にしているような錯覚にポルシェーミは陥った。
その一瞬の動揺をエースは見逃さない。素早く地を蹴り距離を詰めると、渾身の一撃をポルシェーミへ振るった。
僅かに遅れてポルシェーミは反応し腕を上げる。
その動きは鈍いもののエースの振りかぶった鉄パイプを寸でのところで受け流す。
そして体勢を崩したエースにもう片方の腕を振り上げた。
「……っ?!」
その腕があり得ない方へと弾かれる。
まるで見えない壁にぶち当たったかのような衝撃にポルシェーミはぐらりと揺らいだ。
がら空きになった胴体目がけエースは再び鉄パイプを振りかぶる。
人体の急所、喉元向かって鉄パイプを容赦なく振り上げた。
「ぐっ……!」
脳天が揺れポルシェーミの巨体が後ろへ傾く。
振りかぶられる鉄パイプを最後にポルシェーミの意識は途絶えた。