第83章 夏を連れてくる雨
「こらエース!返事がある前に開けちゃダメでしょ」
「だって遅ェんだもん。サボ、早く開けろよな!」
「……水琴、エース??」
なんでここに?とサボは困惑した視線を二人へと向ける。
その視線を受け雨合羽を着た二人はにんまりと笑った。
「ちょっと前、小屋の補修をしないとって言ってたでしょ?」
「お前のことだからうっかり忘れて困ってんじゃねェかと思ってな」
「でもどうやって来たんだ?山越えは危険だろ」
「辻馬車でね。お金がかかるからそう頻繁には来れないけど……」
たまにはいいでしょ、と笑う水琴にサボもまた笑みを零す。
「こんな状態じゃ寝れねーだろ。しょうがねェから手伝ってやるよ、ったく」
「あんなこと言ってるけど、サボのところに行くって決めてからずっと嬉しそうでね__」
「へー?」
「こら水琴!ある事ない事言うんじゃねェよ!」
「ある事ない事なんて言ってないよ。ある事しか」
「それが余計なんだよッ」
途端に賑やかになった室内で、材料を広げながらどこからしようかと相談する二人を眺めてサボの胸中に言いようのない嬉しさが込み上げてくる。
わざわざ辻馬車まで使って。
雨が降る中、徒労に終わるかもしれない疑問を解決するために、ここまで。
__”サボ”に、会いに来てくれたという事実が、少年の心を優しくくすぐった。
「何ぼーっとしてんだよ」
「あぁ、悪い悪い」
「サボ、この辺りの物一旦退けていい?」
「それならこっちに__」
三人の賑やかな声が小屋から響く。
外ではしとしとと雨が降り続いていた。
雨が降る。
大地を潤す、恵みの雨が。
長雨は春の終わりを告げ、新たな季節を運んでくる。
春から、夏へ。
また新たな季節が巡る。