第84章 ルフィ
朝の静かな森にひゅっ、と風を切る音がする。
何も無い空間に風がそよぎ、ふわりと現れた水琴は岩に着地し、辺りを窺った。
そんな水琴の背後でがさり、と草が揺れる。
「!!」
反射的に振り向き距離を取ろうとした水琴の目に映ったのは、エースの服が被せられた木の枝だった。
時間差で倒れ音が出るように細工されたそれを認め、水琴は呆気に取られる。
「___は、」
「取った!!」
隙は一瞬。だがそれを見逃すエースではない。気配を押し殺し隠れていた場所から一気に飛び出すと水琴の背後に現れ手を伸ばした。
その手がハンカチを掴む前に、水琴の姿は宙へと消える。
「んな……っ」
「つっかまっえたー!」
バランスを崩したエースを背後から水琴がガバリと抱きしめる。
そのまま柔らかい草にごろごろと転がり、水琴はエースを取り押さえたままにっこりと笑った。
「私の勝ちね」
その手には赤いハンカチが握られていた。
「……だぁぁちくしょう!今度こそいけると思ったのに!」
かなり自信があったのだろう。しかし思うような結果が得られずじたばたとエースが暴れる。
「うんうん。良い線いってた。ちょっと危なかったもん」
「そう言いながら余裕で避けてんじゃねェ!やっぱその能力反則だろ!」
「でも悪魔の実の能力者なんて海にはごろごろいるよ?」
「……ぐ、」
水琴の言い分にエースは詰まる。
それにしても大きくなったもんだ、と水琴は下敷きにしているエースをじっと見つめた。