第83章 夏を連れてくる雨
この季節の山は土がぬかるみ、土砂崩れも多くある。
危険なことを知っているエースやサボは、水琴が言うまでもなく山越えを控えていた。
根城で一人過ごしているだろう少年を想う。
彼もまた、終わらない雨に退屈しているのだろうか。
いや、サボは案外読書家だ。これはこれで雨の季節を楽しみ本を読みふけっているかもしれない。
そういえば。水琴は一週間ほど前会った時にした会話を思い出す。
もしかしたらただの杞憂かもしれない。
でも、良い口実にはなるだろう。
「ねぇエース」
ごろごろと退屈そうに床を転がっていたエースに声を掛ける。
「サボに会いに行こうか」
楽しいことを思いついたという調子で、水琴はにっこりと笑いそう提案した。
***
「あっちゃあ。こっちもか」
ポツン、ポツンと落ちてくる水滴を見つけサボは困ったように頭を搔く。
既に床に置いたコップや器の数は十を超えていた。
拾い集めていた最後の器を水滴を受けるように床に置くとサボは少し後悔していた。
一週間前。
そろそろ雨の季節だから小屋の補強をしないととエースたちと話していたというのに、面白い本が手に入りついつい後回しにしてしまっていたのだ。
予想通り隙間の多い屋根からは雨漏りが絶えず、寝転ぶのも難しい状況になっている。
取り敢えず大事な本は濡れないよう覆いをし隅に避けているものの、それもいつまでもつことやら。
コンコン。
雨が弱いうちにもう少し器を拾ってこようかと考えていたサボの耳に壁を打つ音が聞こえる。
風で何かがぶつかったのかとサボはそちらに目をやった。
音からしてそう大きなものでは無いと思うが、万が一壁に穴が空いても困る。
コンコン、コンコン。
しかしどうやらそれは偶発的なものでは無いらしい。
何らかの意図を持って繰り返される音にサボはドアを開けようと近付いた。
だが、サボがつっかえ棒を外す前にそれはガタンッと嫌な音を立てて内側へと外れた。