第83章 夏を連れてくる雨
しとしとと降る雨は細く静かに大地を打つ。
今年も長雨の季節がやってきた。
「止まないねぇ」
窓から外を覗いていた水琴は数日前からずっと降り続く雨に溜息を吐いた。
視線を室内に戻す。所狭しと掛けられたロープにはタオルやシーツ、肌着などがこれでもかと吊るされ重そうに垂れ下がっていた。
こう連日雨が続くと洗濯にも支障が出てくるので困る。
「乾燥機欲しいな……」
文明の利器とはかくも偉大なものだったのか。
失って初めて気付く有難さを身に染みて感じ、水琴は最後の一枚をロープに掛ける。
「はい、終わったよ。手伝いありがとう」
空になった籠を手に床に向かって形ばかりの労いの言葉をかければ、「おー」と力ない返事が聞こえた。
床にだらりと寝そべり気の抜けた声を出す返事の主に水琴は呆れた視線を向ける。
「いくら雨でやることないからって、だらけ過ぎじゃない?」
「こんなに雨が続くのが悪ィ。身体は鈍るし、ジメジメして気分悪ィし__」
サボには会えねェし、とつまらなそうに呟く様子に苦笑を浮かべる。
五月も下旬。
ここ、ドーン島には梅雨の季節が到来していた。
元の世界での梅雨よりもやや湿度はマシだが、それでも連綿と続く五月雨は水琴のよく知る梅雨同様なかなか終わりが見えない。
毎日暇さえあれば相棒と外へ繰り出していたエースにとって室内に閉じ込められる日々はなかなか堪えるものがあるのだろう。
せめてサボに会いに行ければな、と水琴はグレイターミナルの方角へ目を向ける。