第82章 不器用な愛し方
扉をそっと開く。
エースにあてがわれている部屋を覗けば、いつもの寝床でぐったりと沈んでいた。
「エース、ガープさん帰ったよ」
「そうかよ……」
小さく返される声は低く掠れており先程までのシゴキの酷さが伺えた。
エースをここまでしぼれるのはきっとこの世界では彼だけだろう。
「ったく、酷い目にあった」
水を飲んで人心地ついたエースがうんざりと吐き出す。
その様子にくすりと水琴は微笑む。
「…たまにはおじいちゃん孝行してあげればいいんじゃないの?」
「冗談だろ。あんな自分勝手な奴素直に相手にする必要ねェんだよ!」
心底嫌そうに唸るエースにそうかなぁ、と水琴は先程のガープを思い出す。
「少なくとも、忙しい中時間を縫って見に来たいって思ってるのは確かだよ」
「………」
「実際に血が繋がってないのに、なかなかできることじゃないと思うけどな」
海軍中将という立場がそんなに軽くないことは水琴にだって想像がつく。
それでも本部からここまで様子を見に来るのは、ひとえにエースのことを想ってだろう。
「まぁ、素直じゃないとは思うけどね」
「……んなこと分かってる」
ぽつりと呟かれた言葉にこっちも素直じゃないんだからと苦笑する。
結局仲が良いのだ。彼らなりにの形ではあるが。
祖父というものを持たない水琴は素直に羨ましく思う。
「そういえば水琴ばれなかったか?」
「え?ばれたけど」
「はっ?!」
「でも、大丈夫だよ」
焦るエースとは対照的にニコニコと変わらない水琴に毒気を抜かれる。
「次はゆっくり話してみたいなー」
「おれは逃げる……」
「そう言わずに。あ、エースの赤ちゃんの頃の話とか聞きたいかも!」
「それはぜってー嫌だ!!」
きっと次に来た時もエースは拒絶するだろう。
そしてガープは愛の鞭と称しエースをしこたましごくんだろう。
それがきっと、彼らの不器用な愛し方なのだ。