第82章 不器用な愛し方
「……ふ、ふふ」
水琴にとって長い沈黙を破ったのはガープだった。
「感謝する」
ここでの生活も終わりか。どうやって逃げようかと半ば覚悟しながら振り絞った返答に意外にもガープから返されたのは感謝の言葉だった。
張り詰めていた糸がぷつりと途切れる。
「……え」
「試すようなことを言ってすまんな。一応確認しておきたかった」
「確認、って」
「可愛い孫の傍にいる人間がどんなやつか知っておきたいと思うのは親心じゃろう」
目の前にいるのはもうすでに海軍中将ではなく出会い頭の孫をかわいがる祖父そのもので。
一気に水琴の身体から力が抜けた。
「あんなに楽しそうなエースは久しぶりに見るわい。今まではどこか壁を作っとるような奴だったからのう。心配していたが…」
安心した、と目を細める様子に本当にエースのことを想っているのが分かる。
「海賊にはさせんが、ここにいる間だけでもよろしく頼む」
「___はい。あの…」
頷き、それから戸惑うように首をかしげる。
「…捕まえなくても、いいんですか?」
「今は山賊見習いなのじゃろう?ダダンのとこには手を出さない約束じゃ」
ではな、と手を振りガープは森へと消えていった。
その後ろ姿が消えるまで、じっと水琴は見つめていた。