第82章 不器用な愛し方
「……はい」
「なぜお主がここで山賊見習いをしているのかは聞かん。
これからも目を瞑るから、お主からエースに海賊を諦めるよう言ってくれんか」
憧れているお主からの言葉ならあいつも聞くだろう。
それは依頼の体裁を取ってはいるが、ほぼ断ることが不可能な依頼だった。
相手は海軍中将。そしてこっちは頼る仲間もいない一海賊。
逆らえばどうなるか、どれだけ馬鹿でも容易に想像することが出来るだろう。
殺気のこもっていないただの気迫だけでこの迫力。
もしも本気でガープが水琴を討とうとすれば、まず勝ち目はない。
水琴には目的がある。
何があっても。必ず元の時代に、家族の下に帰りつくという目的が。
その為ならば、今ここでガープに捕まるわけにはいかないのだ。
だから水琴がこの場で選ぶ最善の方法は、頷く以外にないはずだった。
だが。
水琴は、緩く首を横へと振った。
「……お断りします」
「__何?」
じろりと水琴を射抜く眼光に震えそうになるが、ここは引くわけにはいかない。
水琴もまた自身を奮い立たせるようにその瞳を見返した。
「それは断れば自身の身が危ういと知っての返答じゃな?」
「はい、その通りです」
「理由を聞こうか」
ガープの視線を受け続けながら水琴は目を伏せる。
それは怖気づいたからではなく、かつてのエースを思い出したためであった。