第81章 薄紅に見る夢
急こう配だった斜面は次第になだらかとなり、前方に光が差した。
少し開けたそこにエースは足を踏み入れる。
途端に目に飛び込んできたのは白い風だった。
いや、白ではない。
地に落ちる小さな薄紅色の花弁をエースはそっと摘み上げる。
あまり見たことのない色だ。うっすらとピンクがかった小さなそれの出所に目を向ける。
そこには立派な大木があった。
太い幹は根元から枝分かれし、横へ大きく広がるように枝を伸ばしている。
満開に咲き誇る、それはまるで薄紅の扇の様だった。
その根元、花に埋もれるように木にもたれる見慣れた姿にエースは駆け寄る。
探していた人物はすやすやと寝入っていた。
「水琴、おい起きろよ」
「___ん、」
エース?とやや舌足らずな声音で名を呼ぶ水琴はぼんやりとその眼を開ける。
しばらくぼうっとエースを眺めていた水琴はぱちぱちと瞬きをすると、ようやく焦点のあった目でエースを見た。
「__エース?」
「だからそうだよ。何べん言ってんだ」
「……そうだよね」
静かに微笑むと水琴はどうしてここに?と首を傾げる。
「お前こそ、なんでこんなとこにいんだ?それにこの木……」
「あぁ、この前偶然見つけたの。たまにここでこうして過ごしてるんだ」
こっち、と言われ隣に腰を下ろす。
根元から見上げると、まるで世界が薄紅に覆われているようだった。
「綺麗でしょう?」
「……まァ」
「これね。私の故郷に咲く花なんだ」
サクラって言うんだよ、と教えてもらった名前は初めて聞く名で。
この島にこんな花が咲いていることをエースは初めて知った。
「初めて見つけた時、懐かしくて、嬉しくて。__でもね、ちょっと寂しかったんだ」