第81章 薄紅に見る夢
今日は用があるからと言うサボと別れ、エースは少し早めに小屋へと帰ってきた。
いつもならば家事をこなすためくるくると動き回っている姿が見えずエースは首を傾げる。
「アイツどこ行った?」
「水琴なら今日は休みだよ」
いつものように昼間から酒を飲んでいるダダンの返答に耳を疑う。
そんな話は初耳だった。
またもや何も告げられなかった事実にエースのもやもやは増していく。
「そろそろ時間だから帰ってくるだろ」
「__探してくる」
「ガキじゃないんだから放っときな。それよりもアンタは掃除を__ってくらァ!!」
ダダンの怒鳴り声を背に受けエースは小屋を飛び出していく。
端町に行ったのだろうか。あの男に会いに。
どこへ向かおうか決めかねて、エースの足は一瞬揺らぐ。
そんなエースの髪を風が優しく撫でていった。
「………」
吹く風に導かれるようにエースは森の奥へと分け入っていく。
最近すっかり覚えてしまった道筋を辿り、エースはぴたりと足を止めた。
「……ここに来てどーすんだよ」
いつも水琴を見失う場所までたどり着いたものの、そこから先の見当がつかないエースは溜息を吐く。
当たり前だが水琴の姿はない。
「………」
そもそもなぜ水琴はここで風になるのだろう。
エースたちを撒くためという線は早い段階で消えている。
ならば、他に何か理由があるのだろうか。
__風にならなければならない、理由が。
エースは前方を見上げる。
森はそこから盛り上がり急こう配の山に続いており、その先は木々が生い茂り何も窺い知ることは出来ない。
山に慣れたエースやサボならばたやすく登れるだろう。だが水琴は?
エースは斜面へと足を掛け登り始めた。