第81章 薄紅に見る夢
次の日。
サボとエースは水琴の尾行はせず、川で獲物を狩っていた。
久しぶりのワニ鍋にサボは舌鼓を打つ。
「結局あの男は誰なんだろうな」
「もういいだろ。別に誰でも」
「話してもらえなかったからってそんなに拗ねるなよエース」
「拗ねてねーよ!」
宥めにかかるもその言い方が気に喰わなかったのかエースが歯をむき出して抗議する。
サボからしてみればその様子は母親に相手にされず拗ねている子どもと何ら変わりはないのだが、見た目に反して繊細なところのあるエースにこれ以上突っ込みを入れれば火に油を注ぐのは明らかなので懸命にも口を閉じた。
むっつりと黙り込むエースを見て藪蛇だったかなとサボは少し反省する。
最初はただの暇つぶしのつもりだった。
水琴の様子が何となくおかしいことは事実だが、本気で恋をしていると思っていたわけでも何かトラブルに巻き込まれたと思っていたわけでもない。
彼女だって年頃の女性だ。心に秘め事の一つや二つあって普通である。
ただそこまで深刻なもの、例えば今の日常を害するような、そんな隠し事ではないと予想をつけた上での尾行の提案だった。
ちょっと探偵の真似事をして、ついでに水琴の不調の原因が何か知ることができれば、何か助けになれるかもと思っていただけなのだが。
予想外に深手を負ったらしい相棒に申し訳無い気持ちになる。
「ほら、尻尾の部分やるよ。うまいぞ」
「……食う」
探偵ごっこはこれで終わりだな、とサボは器を手渡しながら一人胸中で一連の出来事に幕を引いた。