第81章 薄紅に見る夢
その日はそれ以上何かする気も起きず。
不完全燃焼の気持ちを抱えたままエースとサボはグレイターミナルで別れた。
ぶらぶらと時間をつぶし、夕方ごろ小屋へ帰れば水琴はいつも通り夕飯の支度を行っている。
「おかえりー。まず手を洗ってきてね」
「………」
「エース?」
どうかした?と振り向く水琴はやっぱりいつも通りだ。
それがどうしてか癪に障った。
「__別に。なんでも」
賑やかな食事の間もエースの胸を占めるのは昼間の出来事だった。
笑い合う年頃の男女。
そこにエースの入り込む隙は無く、まるで完成された舞台を客席でポツンと眺めているようだった。
__水琴だって年頃なんだから、そんなこともあるかもしれないだろ。
あの日は確かに笑い飛ばしていたはずなのに、今はそんな気分には到底なれそうもない。
結婚なんてピンと来ない。
それよりも、一人海へ行ってしまう方がずっとずっとエースは怖かった。
そのはずなのに。
よく分からない感情をエースは一人持て余す。
食べたかどうか記憶にない食事を終え、風呂から出れば窓際で水琴が一人外を眺めているのを見かけた。
くるくるとよく変わる表情はなりを潜め、どこか遠い、ここではない場所に想いを馳せるその表情はまるで全然知らない人間のようで。
その視線の先にあの森があることに気付き、思わずエースはその服の裾を引いた。
「うわっ、どうしたの?」
「え、あ……」
驚きこちらを見つめる水琴はいつもの水琴で。
その瞳にしっかりとエースが映っていることに、何故か酷く安堵した。