第81章 薄紅に見る夢
「……あっぶねェ」
「なぁ、これはチャンスじゃないか?」
「え?」
「つけてみようぜ。町中なら水琴も風にはならないだろ?」
確かにそうだ。森ではうまくいかなかったが、町中ならエースたちの方が分がある。
離れていく背中を二人は足早に追いかける。
サボのリストを遡っていくように、水琴は様々な店に顔を出していった。
買い物をすることもあればただ世間話をしているだけという様子だが、そのやりとりは店員と客という枠を出ずやっぱりな、とエースは確信を深める。
「ほらな、やっぱりアイツに恋人なんていねーんだよ。最近の様子もただの気のせいだろ」
「うーん。まぁ確かに……」
もう尾行なんてやめて森に行こうぜ、と言いかけたエースの口は水琴に近寄る男を見つけてぴたりと止まった。
サボもまたその男に気付き息を潜める。
水琴へと駆け寄った男は親しみを込めた笑みを向けその肩を叩く。
叩かれた水琴は振り向きその男を認めるとぱっと表情を輝かせた。
遠くから窺っているので内容は聞き取れないが、何やら楽しそうに話し込む様子に店員と客という関係ではないということはなんとなく分かる。
「__なぁ。あれって……」
「………」
水琴よりも背の高い、がっしりとした体格。
身に纏う衣服はシンプルながら小綺麗なもので清潔感もあり。
何より水琴へ向けられる眼差しはとても優しく細められていた。
男は持っていた包みを水琴へ渡し、何やら告げる。
水琴は嬉しそうに受け取ると、男の手を取り何か言葉を紡いだ。
男は水琴の言葉に照れ臭そうに微笑み、水琴もまた柔らかな表情を向ける。
その表情に二人は顔を見合わせた。
「__もしかして、アイツが?」
「じゃあ森で消えるのはなんでだよ」
「人目に付かないところでデートでもしてたとか……?」
「………」
黙り込むエースのずっと前、人ごみの向こうで笑う水琴は、どこか遠い人間のように思えた。