第81章 薄紅に見る夢
「最初は、パン屋かな」
懐からメモ帳を取り出してサボがずらりと並ぶリストを確認する。
「なんだそれ」
「水琴がよく寄る店のリスト」
いつの間にそんなもの作成していたのか。
それよりも何故そんなことを知っているのか。
聞きたいことは多々あったものの、とりあえずは脇に置いておく。
雑多な通りをするすると進んでいけば、美味しそうなパンの焼ける匂いが鼻腔をくすぐった。
端町では安くてうまいと評判の店らしい。ちょうど昼時らしく店先は人で溢れていた。
その中で陽気な声を張り上げて売り物を捌く青年の声が響く。
「さぁさぁ、バケットが焼き立てだよ!こちらのサンドイッチは残り一つ、そこの旦那どうだい?」
さすが接客の仕事を担っていると言うべきか。その声は明るく活気に満ち、通りを横切る人の心にするりと入り込む。
その声につられるように一人、また一人と通行人は店の前で足を止めパンを求めた。
人当たりのいい笑顔に周囲は和やかな空気に満ちていた。
そんな様子を遠くからそっと眺めていたエースは顔を歪ませる。
「なよっちいな。ないだろ」
「でも水琴は優しい奴の方が好きそうじゃないか?」
「弱けりゃ意味ないね。次だ次」
次に訪れたのは服屋。
お手ごろな値段でオーダーメイドも請け負ってくれると評判らしい。
「長髪は好みじゃないだろ」
「そうかぁ?」
「それに神経質そうで水琴には合わねェな。次」