第81章 薄紅に見る夢
「あ、おかえり」
それからはいつものように過ごし、夕方帰れば水琴は当たり前のようにエースを出迎える。
大きな鍋をかき回し夕飯の支度をしている様子に不自然な様子は見られない。
「今日はシチューだよ。手を洗ってきてね」
「……なァ」
「ん?」
なぁに、と振り向く水琴にエースは何も言えず口を閉じる。
「__いや、なんでも」
「そう?あ、エース。汚れ物も早めにカゴの中に入れておいてね」
再び鍋へ向く水琴の背中をじっと眺める。
エースの視線には気付かず、水琴は楽しそうに鼻歌を歌いながら料理の仕上げを施していく。
わざわざ人目を避けるように風となり、一体どこへ行っているのか。
気になるのなら、ただそう尋ねれば済む話だ。
けど、聞けない。
普段の水琴なら、どんなことでも自分から話してくれた。
あそこの木の小鳥が飛ぶ練習をしてたとか。
蜘蛛の巣に水滴がついてきらきらと綺麗だったとか。
なんてことない、些細なこともなんだって共有してくれた。
もし。疑問を尋ね、はぐらかされてしまったら。
尋ねた後の水琴の反応を知るのが怖くて、どうしてもエースは聞くことができなかった。