第81章 薄紅に見る夢
「もう行ったか?」
「いや、まだ中にいる」
次の日。遊びに出かけたふりをしてエースはサボと合流し小屋の近くへ待機する。
最近のパターンであれば、そろそろ家事を終えた水琴が外へ出てくるはずだ。
予想通り一人小屋から出てきた水琴は森へと入っていく。
カゴを持っているわけではないので採取が目的ではないだろう。サボと二人目配せをし、そっと後を追い始める。
どうやら森の奥へと向かっているようだ。海の方ではないことに内心ほっとする。
しかしそれならばどこへ向かおうというのだろう。
グレイターミナルの方とも違う。フーシャ村でもない。
あまり普段足を運ばない方へ向かう水琴の足取りに疑問は増していく。
「こっちの方って何かあったか?」
「さぁ……あ、止まったぞ」
不意に水琴が立ち止まりエースたちは慌てて近くの木の陰に隠れた。
息を殺して水琴の様子を窺う。森の中歩みを止めた水琴はきょろきょろと辺りを見渡しているようだった。
「何か探してるのかな」
「こんな森の中でか?__っ!」
不意に風が沸き起こりエースは舞う砂埃に目を庇う。
風は一瞬で立ち消え、元の静寂を取り戻した。
視線を戻せばそこに佇んでいたはずの水琴の姿は影も形もない。
撒かれてしまった事実に二人は呆気にとられ顔を見合わせた。
「気付かれたのか……?」
「でも、水琴なら気付いたら声かけるんじゃないか?」
「じゃあなんで風になって消えたんだよ」
「うーん……」
このままここで考えていても仕方がない。
こうして二人の尾行一日目は失敗に終わった。